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書評:ダービースタリオン3殺人事件
本屋でタイトルを見たときは我が目を疑った。その発想は無かった。

(2021年4月8日改定)

このタイトルで、パロディやジョークの類でもなく公式ノベライズである。一発ネタというか受けをとるために買ったようなものなので内容は期待していなかったが、思ったより面白いというか、ツッコミながらも普通に読めてびっくりした。といったら失礼か。

まずダビスタという、具体的なシナリオどころか大筋のストーリーすら存在しないゲームを小説化するということ、それもゲーム内容とはかけ離れた「殺人事件」を題材にしてしまうという発想がおかしい。当然、ゲーム内では殺人どころか人が死ぬ場面すら存在しない(馬は死ぬが)。

加えて、ゲームにおける主人公(プレイヤー)的な立ち位置の人物すら一切出てこない。ゲームにおいてプレイヤーの分身たる馬主は、零細ブリーダーからスタートする青年実業家っぽい男性(G1獲得時の画面で姿が見られる)なのだが、そのような人物すら登場しないのだ。主人公は双子。競馬には疎いが頭脳派の探偵である兄・右京と、競馬好きで肉体派の刑事である弟・左門。当然ながらゲームには探偵も刑事も登場しない。せいぜい税務署の取り立てがあるくらいである。

セリフとして「滝騎手(武豊騎手のもじり)」やら「持金(もちかね)牧場」といったゲーム由来の用語が登場するものの、事件の舞台となるのは祐天寺スタリオンステーションという大規模ブリーダーの一家と、それに関連する厩舎であり、いずれもゲーム内に登場する名前ではない。しかもダビスタ世界の名詞が現実に存在しつつ、作中にもダビスタのゲームソフトが出て来るというよく分からない世界。そもそもこの小説がダビスタである理由は皆無である。現実の騎手や馬名など(そのままか変名かを問わず)出す必要もないし、作中に登場するゲームも競馬シュミレーションであれば架空でも構わない。結局、ダビスタ人気にあやかった便乗グッズなのだろう。この内容を「競馬殺人事件」等のタイトルで出すよりは確実に売れたはずだ。

主人公をはじめとして「双子」がキーワードであり、推理ものとしては少々ヒントが露骨過ぎるが、そもそも競馬ゲームをサスペンスにするという発想が異次元だから細かいことは気にしないことにしよう。主人公の双子も、簡単に警察のデータベースにハッキングしたり、武装した4人を相手に素手で正面から撃退するようなチートスペックで現実感が薄い。それ以上に気になるのは倫理観で、兄は自分が狙われていることを知りつつも弟に何の説明もせずに身代わりにしていたり(前述の通りあっさり撃退したが)、最後も犯人(事故死)と被害者(未遂)の入れ替わりによる「背乗り」を刑事が肯定したまま終わるという無茶苦茶なものである。

競馬小説としても無理がある。事件の背景に「騎手になりたかったが、父の死によるごたごたでそれができなかった」ことへの後ろめたさがあるが、入学年齢は中卒から20歳までなので余裕があり、技量があるなら学校を出なくても一発試験による合格は可能である(特に地方競馬では厩務員から騎手になる例も多いそうだ)。それ以前に視力が悪い(メガネが必要)ことのほうが支障になる(裸眼で左右ともに0.8以上必要)はずだが、なぜ近眼の設定にしてしまったのか。メガネかけてる騎手なんて見たことないでしょ?

(なお、作者は後書きにてディック・フランシスの競馬シリーズのファンであると公言している)

ダビスタ小説としても問題がある。まず本作の主人公的な馬を産んだ繁殖牝馬「ワンオアエイト」はダビスタ3には登場しない(ちなみに前作には登場しており、モデルはビンゴサフラーという馬。作中ではニッポーテイオーを種付けすることでパーソロンのクロスとニックスが成立しているが、現実ではこの配合は行われなかったようだ)。またエピローグのダービーではアイリスフウジン、コウカイテイオー、ミソノブルボンなどが一同に会しているが、現実はもとよりゲーム内でも(馬ごとに決まった周年ローテーション制なので)この状況はないのではないか。

ツッコミどころは満載で、真面目なミステリーファンが酷評している書評も見たのだが、僕が嫌いになれなかったのは(ゲームノベライズや現代サスペンスの皮をかぶった)「民話」のように読めたからかも知れない。言ってみれば「暴君に虐げられていた若者は、実は王家の血を引いていた。天の巡り合わせで悪い暴君は死に、善良な若者が彼に成り代わった。めでたしめでたし」という話なのである。設定や展開に粗があろうと、登場人物たちが約束された結末へ向けて役割を果たすのを読む物語である。

ところでこの小説はログアウト冒険文庫というライトノベルのレーベルだが、この手のジャンルにおいて主人公の姿が(表紙絵、挿し絵などで)一切登場しないものは珍しいと思う。表紙こそ馬のイラストだが、挿絵は加工した写真である。…ってよく見たら、イラストレーターがウィザードリィ関連で有名なキメラこと高橋政輝氏ではないか。出版社つながりでこんな仕事もやってるんだなぁ。

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