電子の世界を駆け抜けた名馬について、ゲーム自体を知らない人でもわかるように丁寧に解説することを試みる。
はじめに
スーパーファミコンで発売された競走馬育成シミュレーションゲーム、ダビスタ2こと『ダービースタリオン2』には、前作にはなかった新しい要素が追加された。その中の一つが「ブリーダーズカップ(以下「BC」)」である。これは一種の対戦モードであり、本編で育てた馬のデータをパスワード化して他のカートリッジに入力することで、様々なプレイヤーが育てた馬を競争させることができるのだ。
従来、ゲームソフトにおけるパスワードというのは専らセーブデータ代わりに使われた。進行状況を暗号化してパスワードにすることで、次回プレイするときにそれを入力すると前回のプレイを再開できるという仕組みである。これを応用して、キャラクター単位をパスワード化することで異なるプレイヤー同士の育てたキャラクター(ここでは馬)を対戦させることが可能になったのだ。ダビスタにおける競走というのは、基本的にプレイヤーが介入できずに観戦するだけだからこそ成り立ったのだろう。
ブリーダーズカップ事始め
初めてパスワード式の対戦が導入されたのはPC-98版である。パスワードさえあれば、物理的な距離に関係なくプレイヤー同士の対戦が成立する。ダビスタそのものに通信機能はなかったが、パスワードをパソコン通信で交換することで対戦が成立した。しかしこの時点では、エントリーされた馬はいわゆる「ゲーム内最強」レベルであり、決勝戦においてすらデフォルトのコースレコードを更新することはなかった。配合理論らしいものも見られず、上位陣も「高額牝馬に(スピード能力で最も優れる)スティールハートを付ける」という、前作までのセオリーをそのまま踏襲した馬ばかりである。
PC-98版といえば繁殖牝馬の自家生産が解禁され、「代重ね」が可能になった。しかし、ブリーダーズカップの参加者で代重ねを効果的に利用している人はほぼ見られない。これは個人的な予想なのだが、ゲーム内のライバル相手に楽勝できる時点で、それ以上の馬を生産・育成できる可能性については考えもしなかったプレイヤーがほとんどだったのではないだろうか。
なお、僕はこの当時のことを知らないし、PC-98版に触ったことすらない。しかし攻略本を読むことで当時の事情をある程度は把握できた(少なくとも、現時点でネット上で見られるあらゆる情報以上の知識は得たと思う)。詳しくは「PC-98版ダービースタリオンについての覚書」に書いたので参考に。
シルバイオー誕生
本格的にブリーダーズカップが攻略されるようになるのは、コンシューマ版『2』以降である。雑誌などを通じた大会が開催され、プレイヤー達の自慢の「最強馬」が鎬を削りあった(なお、僕は2についてもリアルタイムでは知らないので伝聞による。知ったきっかけは『ダービースタリオン3全書』)。その中の頂点に君臨した馬こそが、後にダビスタ名人の一人に数えられる横井顕のシルバイオーである。
その競走成績(パスワードに保存される)は58戦58勝という驚異的なもの。しかも9歳(現表記だと8歳)で、いかに晩成馬といえどもとっくにピークは過ぎているはずの馬齢なのにとんでもなく速かった。最後の直線ではカメラを振り切って画面外に消えてしまう。ゲーム内の最強ライバル馬(実在馬のパロディで、これらもパスワードが公開されたのでBCで対戦できた)など全く相手にしない異次元の速さである。
強さを数値で例えるとしたら、100点満点で180点といったところ。つまりゲーム内のライバル相手に勝ちまくれる強さを100点だとすると、その倍くらい強いという意味である。決勝戦でゲーム内レコードすら破れなかったPC-98版とは次元の違う勝負である。
このシルバイオーがどれくらい話題になったかというと、なんとスポーツ雑誌であるNumberで横井顕氏のインタビューを行い、最強馬の秘密を語る記事が掲載されたほどである(1994年10月13日発売、通巻351号「秋競馬、最強の輝き。」)。今で言えばeスポーツのプロゲーマーのインタビューが載るようなものだが、当時はeスポーツなどという言葉はなく、テレビゲームがスポーツというカテゴリで語られることすら想像できなかった。それほど異例の記事だったのである。
その秘密は驚異の牝馬10代重ね。基礎牝馬のパリティビットから始まり、スティールハート・セントシーザー・ビショップボブ・ラシアンボンド・スティールハート・リードワンダー・ビショップボブ・テンパレートシル・ホリスキー・リアルシャダイと、産まれた牝馬たちに10頭の種牡馬で代を重ねていく。本作で子孫を残せるのは牝馬のみで、その牝馬の生まれる確率は代ごとに下がっていき、3代目以降はわずか1%になる。セーブとロードを繰り返してその1%を引き続けたのである。
(ダビスタを知らない競馬ファンからすると「10代も牝系を繋げば最低でも30年はかかるから種牡馬の寿命が持たないのでは?」と思うだろうが、本シリーズにおいて種牡馬は不死身で、年代に関係なく種付けできる。もともと発売年あたりの競馬界のシミュレーションを延々と繰り返すというゲームなので、そもそも牝系が原則として3代までしか続かないのも、時間軸のリアリティを誤魔化すという意味もあるのかも知れない)
実際の大会の模様はダビスタコミック1巻にて特集されている。1994年夏、ゲーム店など全国84箇所で予選を行い、そこから準決勝までに24頭に絞り込み(やり方の詳細は不明)、準決勝の上位6頭ずつで決勝戦を行うというものである。シルバイオーは準決勝で2分13秒7、決勝で2分14秒0というタイムを記録している(いずれも東京・芝2400m)。なお、いずれも2着に付けたのはダビスタダイオーという馬で、準決勝では2馬身半にまで迫っている。シルバイオーほどではないにせよ、それに近い手法で生み出されたのだろう。決勝レースの模様は3ページながらもフルカラーで漫画化されている。ゲームではなく作中人物の視点で、かわうち騎手の作戦による逃げ切りということになっている。
5着までに入った馬は生産者(プレイヤー名)が紹介されている。ダビスタダイオーを生産した渋田保夫氏、3着のサンデーサイレンス(2では種牡馬として登場しないので名前を付けられるのだ)の小林憲一氏は、後に横井氏とともにダビスタ四天王と呼ばれることになる。なお着外には「カメシャー」という名の馬がおり、名前から四天王の一員となる亀谷敬正氏(「カメ」を冠名とする名馬を多数送り出した)を思わせるのだが詳細は不明である。
(このダビスタコミック、実際のトウカイテイオーの生い立ちを下敷きにした「コウカイテイオー物語」というストーリー漫画、漫画家自身のプレイ体験の漫画、さらには横山まさみちによる「オットセイ」の下ネタや、野上太馳による「馬名は能力に影響する」という謎理論による攻略など、多彩なラインナップで楽しめる1冊である。ダビスタ3発売前の薗部さんへのインタビューもある)
ちなみに『ダビスタクロニクル』において裏話が語られている。それによると横井氏は友人とデータを共有してプレイしており、最後は同じ牝馬からそれぞれの持ち馬を生産していた。しかしその友人が参加した大会は定員割れで開催できず、結果として横井氏は「同士にして最大の強敵を敵に回すことなく無事に優勝」できたということだ。つまり、シルバイオーには最大のライバルとなったであろう幻の兄弟が存在していたのである。
シルバイオーの秘密
シルバイオーのために重ねられた種牡馬は、大きく分けて2つに分けられる。まずは最初に付ける7代、「スティールハート・セントシーザー・ビショップボブ・ラシアンボンド・スティールハート・リードワンダー・ビショップボブ」の部分である。これらの種牡馬はいずれもスピードに特化したパラメータ(距離適性の下限が1000m~1200m)であり、ほぼ確実に母親よりもスピードの高い仔が産まれることが期待できる。代償としてスタミナが犠牲になるが次の段階で挽回できる上に、本作の仕様により一定以上のスタミナは常に保証されるようになっている。
最後の3頭である「テンパレートシル・ホリスキー・リアルシャダイ」はスタミナの補填である。まず説明するが、本作におけるBCのスピードの仕様は独特で、理論上は200以上まで上がるがパスワードに反映されるのは127までとなっている。そのため、過剰なスピードは無意味なのだ。しかしスタミナを伸ばす過程でどうしてもスピードは犠牲になる。そこで、まずスピードを上限付近まで高めた後に、余剰のスピードを「貯金」として切り崩しつつスタミナを高めるという戦略が用いられる。
(なお、横井氏はこの過程で相性の良い血統を掛け合わせる「ニックス」を重ねることを重視しているが、最新の研究ではどうやら本作においてニックスの効果が機能していないことが判明しているようだ。このためスタミナ補填に使うホリスキーとリアルシャダイはともかく、ニックスのためだけに持ち出されたと思われるテンパレートシルは実際には無意味だったかも知れない)
そして、58戦58勝という戦績について。本作の仕様としてBCにおいては勝鞍の数がスピードボーナスとして上乗せされるというのがある。パスワードに記録されるスピードの上限は127までだが、そこに戦績ボーナスが加算されるという仕様だ。シリーズでも本作独自の仕様で、なぜこうなったのかはよくわからない。ただ、対戦モードがまだ存在しなかったファミコン版の頃に「何勝できるかを競う」というやりこみが流行っていたらしく(ファンブック『100万人のダービースタリオン』より)、それを意識したのかも知れない。58勝で止めているのも絶妙で、これ以上重ねるとオーバーフローで弱体化する可能性があるようだ(この仕様が意図的だとしたらチート対策なのだろうか?)。
(なお『ダービースタリオンEXを一生遊ぶ本』P15によると、そもそも戦績重ねによるスピード上乗せは「薗部さんも気がつかなかった仕様」だったと徳田雅哉が書いているが、そんなことってあり得るの?!)
ところで「60戦無敗理論」という用語が独り歩きしているが、シルバイオー自体は58戦58勝である。スピードが上限でマイナス要素(体重増とか)もない場合、60勝もしてしまったらオーバーフローの危険が高くなることが知られている。これも前述の『ダービースタリオンEXを一生遊ぶ本』で触れられており、名人クラスにとっては当時から周知の事実だったようだ。
最後に、9歳(当時は数え年)という馬齢について。本作における加齢のペナルティは「一定以上の年齢でレースに出すと以降はスピードと根性が下がる」というもののようで、レースに出さなければ能力は下がらず、出してしまっても調教で補えるようだ。むしろスピードが下がってから上げ直すことで「人気」のパラメータを高くできる(BCでは騎手の争奪で有利)ようだが、当時の横井氏がそこまで把握できていたか否かは不明である。ただ、あえて最強である「たき」「おたべ」ではなく1ランク下の「かわうち」を鞍上に選んだのには、ライバルとかち合って乗り代わるのを防ぐという戦略的な意図が伺える。
なお、本作においてパラメータは一切可視化されない。せいぜい売値(スピードが基準)が目安になるくらいである。親の能力が仔にどうやって伝わるのかといった仕様の部分も具体的にはほとんど明かされていなかったので、試行錯誤で理論を組み立てるところからスタートしていたことも忘れてはならない。
シルバイオーを超える者たち
シルバイオーは、長らくダビスタ2の世界で最強馬として君臨し続けた。横井氏がインタビューで秘密を明かして以降、同じような手順でポストシルバイオーを育てたプレイヤーはいるだろう。しかし、具体的な攻略手順を共有して解説したケースというのは限られたと思われる。
ウクキカー
レトロゲーム攻略サイト「としゆき大学言語学部」において「ダービースタリオン2でシルバイオーに勝つための攻略」として公開された記事で紹介されている。2ちゃんねるの書き込みによると、2002年3月28日に育成されたようだ。シルバイオーに勝った(勝てる)馬で、その生産や育成の過程を精密に文章化した記録としては過去に例がないと思われる。
シルバイオーとの相違点として、まず最初にスピードを高める過程でスティールハートをひたすら重ねがけしている点が挙げられる。危険配合のデメリットが気性難と脚部不安のみなので問題ないと判断したようだが、実際は3代同系のペナルティで能力が引き下げられている。それでも、父馬が同じであれば売値による能力判定がしやすいというメリットがあるので、一概に間違った攻略法とは言えないのだが。母父のスリルショーも微妙である(ニックス目的なんだろうけど)。
なお、2の最強馬生産において「スティールハート重ねがけ」というのはすっかり定着しており(上述の2chスレッド内でも見られる)、僕も資料を探すまでシルバイオーもそのようにして作られたと思いこんでいた(実際は違っていたのは前述の通り)。次回作であるダビスタ3の最強馬生産の手順において極端なインブリード(いわゆる「ノアノア」こと「ノーアテンション牝馬にノーアテンションを付ける」等)が行われていたのでインブリードへの忌避感が無くなっていたのかも知れないが、それならば3代同系のペナルティも当然知っているはず(ノアノアにさらにノアを重ねても弱い)で、なぜスティールハート重ねだけが広まったのか不思議である。
ついでに、2chの書き込みも含めて「ゲーム内のスピードがBC登録時に丸め込まれる」という仕様についても全く知られていなかった模様。「入厩後に即出走して◎◎◎◎にならなければまだまだスピードが足りない」と書いているが、明らかに過剰である(その場合のスピードは標準型だとしても限界値の半分、さらに体重による減算もあるので…)。結果的に「スピード貯金の切り崩し」という形で理にかなった配合になっていたものの、そもそもシルバイオーの時点で横井氏が気づいていたのかどうかも今となってはわからない(あくまでもニックスによる能力底上げだと信じ込んでいた可能性もある)。
もともとウクキカーは、本来は牝馬を産ませるタイミングでたまたま産まれた牡馬が強かったから育ててみたとのことである(上記2chログ参照)。「ウクキカー」という名前も、カーソルを「ウ」から1マスずつ動かして雑に付けたネーミングであることは明らかだ。つまり、いわば未完成の段階なのにも関わらずたまたま優秀な馬が出たからそれを完成形にしてしまったという、やや残念な出自がある。しかしそれでも、解析情報も何もなかった時代に、手探りでシルバイオー超えを狙ったという過程そのものに価値があるのではないだろうか。
ブラダマンテ
sinoさんによる「(25年目の)ダービースタリオン2でシルバイオーとサイキョウクラウドに勝つための攻略」という記事で紹介された馬。すべてのパラメータでシルバイオーを上回る(予想印で勝つ)ことを目的に生産された。前述のウクキカーが、サイトに曰く「シルバイオーに勝つ攻略ではなくシルバイオーを作る攻略になっちゃった」馬なのに対し、より洗練されたアプローチで完全に勝つことを目的とした本気のプレイの結実である。
リンク先を読んでいただければわかると思うのだが、既知の情報にとらわれずに徹底的に理論を詰めるところから始まっている。しかもエミュレータ等による能力開示は使わず、あくまでも実機プレイで確認可能な情報のみで理論を構築して最強を目指している。公式チートである「もちかね牧場」を利用した能力サーチ等、後世の攻略法(ダビスタ96の「モハめどサーチ」)を活用している点にも注目だ。その過程でインブリードとニックスがどうやら無意味らしいということに25年越しに気づいている。ダビスタファンは多いが、SFCで人気なのは3や96で、2についての研究はほとんど行われていなかったのかも知れない。
スピード強化は効率化(インブリードを恐れない一方、3代同系も回避している)だけでなく、スタミナ強化についても極めて緻密な戦略を練っているのが特徴。結果としてパスワード互換のある3や96と比較しても引けを取らない最強馬を生産することに成功したようだ。
なお、同じ生産者によるまた別のアプローチの最強馬にトワイライトスカイがいる。メジロティターンを〆に使うことでスタミナのカンストを目指した馬のようだ。親が気性Bであるがゆえの限界を除けば最強に近い馬で、ブラダマンテとどちらが強いのか(勝率が高いのか)気になるところである。
参考
記事で説明した馬の能力やパスワードについては、774さんの「ダビスタ2・EX・3・96の生産馬で、後世に残す価値があると個人的に思った馬を勝手にまとめたテキスト」を参照のこと。
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