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地元民が語る、本物の「アジのなめろう(叩き)」
九十九里の漁師料理として全国的に知られるようになった「なめろう」だが、本来の姿が伝わっていない気がする。

注:あくまでも山武市あたりの住民としての視点である。地域差の多い料理だとは思うので先に断っておく。
なめろうと言えば、新鮮なアジなどを薬味や味噌と一緒に叩いて生で食べる料理として知られる。元は外房の漁師料理だが、今や回転寿司チェーンなどでも見かけるほど全国的に普及したと思う。しかし、どうも世間における「なめろう」と、九十九里の地元民に伝わる「なめろう」にギャップがあるような気がしたので記事にしてみる。大きな違いは2点。

小アジを背骨ごと叩く


通常、なめろうにするのは10~15センチほどの小アジである。あまり店では見かけない。というより、出荷できないサイズの雑魚を地元で消費するために生まれた料理だと考えたほうが正しいかも知れない。ともかく、皮を剥いて頭を落としてハラワタを抜いて、しっぽと背びれを取り除いたアジの身を骨ごと使うのが地元流である(なお、新鮮すぎるアジは皮を剥きづらいので、その場合は軽く塩を振って締めておくとよい)。

骨ごと叩くので、厚めの出刃包丁を用意したい。まな板もプラスチック等では頼りないのでしっかりとした木製のものを使おう。祖母が言うには「地引網をやっていた頃はどこの家でもトントンと叩く音が聞こえた」とのことで、時間がかかる力仕事である。それくらい叩かないと骨は食べにくい。

基本的な工程は「まずはアジを粗く叩く→刻んだ薬味を混ぜて細かく叩く→味噌を練り込みながら叩いて仕上げる」といったところ。薬味については一般的なレシピと変わらない。だいたい小アジ10尾に対して長ネギ半本、生姜は親指大、大葉は数枚、味噌は大さじ1杯程度。好みでミョウガや唐辛子などを入れてもいいだろう。これらの薬味類は、どれだけアジの身を叩けたかのベンチマークの役割も果たす。薬味が細かく刻まれていれば、アジの骨も細かくなっているはずだ。

酢に漬け込む


骨ごと叩くので、どうしても骨の硬い部分が残ってしまう。そのため、酢に漬け込んで酸の力で骨を柔らかくする(カルシウムを分解する)。酢は三杯酢などではなく原液を使う(我が家では純米酢)。深皿やバットに浅く敷き詰めたなめろうに切れ込みを入れて酢をひたひたに注ぎ、好みにもよるのだが数時間は寝かせてから食べる。お土産として持たせる場合でもあらかじめ酢に漬けた状態にしておく(これは防腐の意味合いも大きいだろう)。

食べる時はそのまま食べる。好みで醤油をつけてもいいが、基本的には叩くときに混ぜ込んだ味噌で味付けは完了している。その場で食べきる場合は酢漬けしてある中に各自がそのまま箸を突っ込んで食べるが、客がいる場合だとか、後で食べるために残す場合はスプーン等で取り分けて食べるのがよい。

実際に作ってみた例が以下のツイートとなる(注:叩いたのはボウルに入っているアジの半分程度。また大葉はなかったので入れていない)。


店で食べるなめろうとのギャップ


上記のレシピは、母の実家(山武市の旧成東町の沿岸部)でも父の実家(東金市、父の母は九十九里町出身)でも大筋は変わらない。家庭により差異はあるだろうが、基本的には地元に伝わるなめろうとはこのようなものであるはずだ(安房のほうではまた違うのかも)。しかし、店でなめろうを注文した場合、上記のようなものが出てくることは地元ですらまずない

理由は考えられる。まず背骨ごと叩くとどうしても食感が良くないこと。また背骨ごと食べられるサイズの小アジを飲食店で安定的に供給するのも難しいのだろう(地元でも、もともとは漁のおこぼれで作る料理である)。酢に漬け込むことで骨の硬さは軽減されるが、酢に漬け込むと白くヤケるので見栄えが悪くなるという問題も発生する。酢に浸した状態で出す店はあるが、提供する直前に酢をかける場合はほとんどだと思われ、また氷を浮かべていたりして薄めている場合が多い。少なくとも白くヤケている状態で出す店を見たことがない。

現在一般に普及している「三枚におろしたアジの身を叩き、酢に漬けこまずに提供する」というスタイルは、飲食店向けの言わば「よそ行き」のレシピである。材料調達や調理のことを考えても、地元民以外が作りやすいのはやはりこちらの方になると思う。しかし地元にルーツを持つ者としては、本来のなめろうの姿が忘れられていくのは寂しい。機会があったらぜひとも作って食べてみてほしい料理である。

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