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【ネザードメイン3】「ハルギスオルタナティブ」とは何者か【ウィザードリィ外伝2】
ウィザードリィ外伝2』の移植作である『ネザードメイン3』で追加された裏ボスの正体について語る。

先に書いておくが、僕自身は『ネザードメイン』シリーズは全く未プレイである。よってゲーム自体の内容に関しては他のサイトの情報を参照することしかできない。

ネザードメインとは何か?


ウィザードリィ外伝2、及び「ハルギス」というキャラクター名に覚えがある人でも『ネザードメイン』というシリーズは聞いたことすらない人が少なくなさそうなので解説する。ずばり「ゲームボーイの『ウィザードリィ外伝』シリーズを、版権に抵触しない形で移植したシリーズ」である。いわゆるガラケーアプリ(落とし切り)として配信され、現在は入手不可能となっているらしい。

版権回避のために立ち上げたタイトルなので『ウィザードリィ』の名前で宣伝できなかっただろうし、ましてウィザードリィファンは携帯アプリなんかに目もくれない人が多い気がする(偏見)ので、知らない人が多くて当然である。

ネザードメインの1作目はオリジナルタイトル(『シャインカーの娘』という、ギリシャ神話のミノタウロスを題材にしたシナリオらしい)だが、2作目と3作目がウィザードリィ外伝1と2に対応する。そのため、ナンバリングが1つずつずれていることに注意。『ウィザードリィ外伝2(古代皇帝の呪い)』に対応するのは『ネザードメイン3』である。

ハルギスオルタナティブとは何か?


『ネザードメイン3』にて追加された隠しボス。原作の裏ボスというか真のボスである「スケイリーエンプレス」を倒した後に戦える。12階のワンダリングモンスターとして追加出現するモンスターから「骨の縫い針」、「羊皮紙の束」、「なめし革の表紙」を集め、スペシャルパワー解放で合成した「不可触魔法の大冊」が必要になるとのことだ。

メッセージに関しては参考サイト(tasopan.com/game/src/icon/wizardry.html)が消失していたので、ここに書き写す。知識そのものが体現したような、謎に満ちた魔道皇帝として登場している。

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黄泉の支配者が滅ぼされた玉座――そこにはまだ、女帝の放っていた魔力が濃密に滞留していた。
まるで、何かの訪れを待つかのように。
封印を解かれた呪文書が、君の手の中ではっきりと脈打った。
それはやにわに宙へと飛び出し、勝手にページを繰り始める。
読めぬ記述――呪文や知識の数々が羊皮紙から浮かび上がり、綴りの帯となって渦を巻き始めた。
無数の文字が舞い狂い、知の奔流となって、やがてその書物を記したであろう人物を再生させる。
人には扱えなかった知識が、理想の人型を取って実体化する。
人間の、種としての限界を持たぬ存在――編まれた書物が著者以上のものとなって立ち現れる。
かくあるべきだったもうひとつの姿。

若き魔道皇帝は物憂げに微笑んだ。

「余はここに生まれた。
 完全なる知を体現する者として。
 ゆえに何もかもが瞭然と解る。
 余の望みと汝の望みはひとつだと。
 さあ、改めて滅ぼしあおうぞ」
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討伐に成功すると「叡智の方解石」というアイテムが手に入り、これを王宮に持ち込むと「女帝の鱗盾」という、「女帝の鱗(本来のクリアアイテムであり、呪われた盾でもある)」の呪いが解けた最強の盾が手に入る、ということらしい。

一見すると若返ったハルギスのように見えてしまう(実際、そのように受け止めてる人が多い)のだが、名前をよく見てみよう。オルタナティブとは代替のこと。つまり「ハルギスに成り代わる者」であり、ハルギス自身ではない。では一体、奴は何者なのだろうか。

古川日出男によるノベライズ


それを紐解く鍵はゲーム本編ではなく、古川日出男によるノベライズ版、ログアウト冒険文庫の『砂の王にある。ただし当作品は未完で打ち切られてしまったので、これを読むだけでは真相にたどり着けない。『砂の王』を作中作という形でリメイクした『アラビアの夜の種族』にこそ答えがあるのだ。こちらもまた『ネザードメイン』と同様に、版権を回避するために取られた処置だと思われる。両作品の関係についてはベニー松山の解説に詳しい

『アラビアの夜の種族』は、エジプトから見たナポレオン戦争を題材にした歴史小説である(少なくとも、それを装っている)。タイトルや概要を見ただけではまさか『ウィザードリィ外伝2』のノベライズが原型になっているとは気づかないだろう。実際、ウィザードリィファンとは関係なく文芸として高い評価を受けている(むしろ先入観なしで読み進めて、なぜかRPG風のダンジョン探索の場面があることに戸惑う書評を読んだ覚えがある)。ベニー松山の解説にたどり着けなければ、当時の『砂の王』の読者でも気づかずにスルーした人が大半だと思われる。

(余談。あくまで個人的な見解だが、今から『砂の王』を読む必要は特に無い。『アラビアの夜の種族』を読めば十分である。作風の変化などを楽しむことはできるが、プレミア価格を支払ってまで買うほどの本ではない)

答え合わせ(ネタバレ)


結論を言えば、ハルギスオルタナティブとはノベライズ版の主人公である(厳密には、2人あるいは3人いるとも言える主人公のうちの1人)。『砂の王』では「ヴァル」、『アラビアの夜の種族』では「ファラー」の名前で登場する。細部は異なるものの「拾い子として育てられた集落で魔術師を志すが、生まれの違い故に才能を見限られて出奔、劣等感をバネに最強の魔術師を目指す」という大筋で一致している。数奇な運命の果てに、なぜヴァル(ファラー)はハルギス(『アラビアの夜の種族』では「アーダム」として登場)に成り代わったのか。その答えはここには書かない。答えが気になる人であれば、つまらないネタバレよりも小説そのものを読むべきだと思うからだ。幸いにも入手困難な本ではない。図書館で貸してくれるところも多いだろう。ぜひ自分の目で物語の顛末を確かめることだ。

つまり「ハルギスオルタナティブ」とはノベライズである『砂の王』からの逆輸入ということになる。ベニー松山は同小説の大ファンであることを公言しているので、作者である古川日出男への返礼と言えるかも知れない。ただし、それが描かれた『アラビアの夜の種族』も、実装された『ネザードメイン3』も、ウィザードリィファンの間で知名度があまりにも低く、ほとんど気づかれなかった不遇なネタなのである。誰かが解説してくれるかと思ったが誰も解説してくれなかったので、(『ネザードメイン3』自体を未プレイにも関わらず)僭越ながらここで概要だけでも説明したくなったのだ。

繰り返すが、『アラビアの夜の種族』は元ネタとは無関係に一般文芸として高く評価されている作品である。長編なので躊躇するかも知れないが、『ウィザードリィ外伝2』のファン、とりわけ『砂の王』の読者でもあった人にはぜひ読んで欲しい「1冊」である(文庫本は3巻構成だが、やはりここは全1巻のハードカバーで読んで欲しい)。

追補:ネザードメイン3の追加ボスについて


さて『ネザードメイン3』においては、ハルギスオルタナティブの「前座」と言うべき3体の追加モンスターがいる。「ペナライズドアドミラル」と「フォーレンジェネラル」、そしてもともと外伝2にいたがパワーアップして登場した「デリュージャン」の3体。

英語だと分かりづらいのだが、「ペナライズドアドミラル(Penalized Admiral)」は「罰せられた提督」、「フォーレンジェネラル(Fallen General)」は「堕ちた将軍」の意味である。これでもわかりにくいのだが、要は西遊記の猪八戒と沙悟浄なのである。天の川の水軍を指揮する猪八戒こと天蓬元帥はアドミラルで、沙悟浄こと捲簾大将は大将なのでジェネラルというわけだ。

残る「デリュージャン(Delugean)」は大洪水(Deluge)の意味。見た目も猿なので孫悟空に違いないのだが、これは少し複雑。ベニー松山が直接関わった攻略本『ウィザードリィ外伝2 イマジネーションズ ガイドブック』においてデリュージャンは「無支祁(むしき)」として紹介されている。無支祁と孫悟空はイコールではない(少なくとも、西遊記の本編に無支祁の名前は出てこないはずだし、孫悟空と洪水の繋がりもない)が、伝承においては起源の一つとされている(このあたりの猿と水の結びつきに興味がある方は、岩波文庫の「河童駒引考」を読んでみることを個人的におすすめする)。

なお、同ガイドブックにおいてデリュージャンは「鎖の法力によって真の力を封じられているが、本来は魔王の座を取って代わるほどの力を持つ荒ぶる神」という設定が語られている。いわば『ネザードメイン3』に登場する強化版は真の姿ということなのだろう(参考サイトによると、鎖が外れて如意棒を持った姿に描き改められているようだ)。

いずれにしても西遊記に由来していることは間違いないが、彼らの正体については『アラビアの夜の種族』を読んでも種明かしはされない。むしろ読者からすると意味不明な人選である。このせいで、ヴァル(ファラー)であるはずのハルギスオルタナティブがなぜか玄奘三蔵法師と重ねられてしまっており、『アラビアの夜の種族』未読のプレイヤーに対して大いなる混乱を招いている面があるような気がする。一応、知識(書物)の探求者という意味で共通点はあるのかも知れないが。

(唐突な西遊記要素に関しては、「諸星大二郎の作品に由来するのではないか」という指摘を2chで見た覚えがある。未読なのでなんとも言えないが、そのうち読んで何かわかれば追記するかも)

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ネザードメイン3は当時最後までやったんですが、小説関連の情報は全く知らない事ばかりでした。素晴らしいです。
ナナシの実 | URL | 2021/07/29/Thu 20:06 [編集]
小説の読者がノーヒントでプレイして発見したら大興奮だったと思うのですが、そのような話は聞いたことがない程度にはマイナーなんですよね。
何らかの形でまた日を見ることを願っています。
かける | URL | 2021/08/06/Fri 08:00 [編集]
コメント削除のおわび
「雅」さんのコメントを、スパム削除の際に誤って巻き込んでしまいました。
せっかくコメントをいただいたのに申し訳ございません。
今後も機会がございましたら遊びに来てください。
かける | URL | 2021/09/24/Fri 13:24 [編集]
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