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本とゲームのレビューと雑文が中心。

「拡張アート」にまつわる問題について思ったこと
MTG界隈をちょっと賑わした件についての自分の意見。

文中では「拡張アート」で通しているが、ここではカードに対して不可逆な加工を行う行為全般を指す(シャドーボックス等も含む)。
きっかけとなったツイートは、カードショップセラ公式アカウント(スタッフ共同管理のようだが、以下の発言は店主である加藤英宝氏のものだとされる)の以下の発言である。





文脈としては、上の「一番悲惨な状態のカードは?」という質問への答えに続く形だが、拡張アートを施したカードそのもののみならず、拡張するという行為自体を強く否定する言葉であり、多くの反発を生んだと同時に共感の声も多かった。

アートとは何か?


加藤氏は「アートと呼べるようなものではない」とのことだが、この世に存在するもので「アート」を主張できないものは存在しないというのが僕の考え方だ。コラージュだろうが既製品のコピーだろうが、あるいは紙にこぼしたコーヒーの染みだろうが、アートであると主張した時点でアートである。もちろん、それが他人に評価されるかどうかは全く別問題だが、支持者の多寡はアートであるか否かという問題とは本質的に無関係のはずである。この点に関しては加藤氏と明確にスタンスが異なることをまず主張したい。

人の絵に手を加えることの是非


前述の定義からすれば「拡張アート」も間違いなくアートである。ただしアートとしての価値とは全く別のベクトルの話として「他人の作品に勝手に手を加えることは行儀が悪い」ということを忘れてはならない。もちろん行儀が悪かろうが「楽しい」ことは理解できる。教科書の写真や肖像画に落書きをした経験のある人は多いだろうが、だからと言っていい年した大人がおおっぴらにするようなことではないと思う。

これはカード本体へ手を加えることに限らず、例えばゴミにしかならない開封済みパッケージや、あるいは実体のない電子データへの加工も同様に「行儀が悪い」行為で、基本的には慎むべきものだと考える。極端な話、アーティスト自身が拡張アートを積極的に認める、例えば「拡張アートコンテスト」みたいなものを開催するのでもなければ、個人あるいは身内でのひっそりとした楽しみに留めておくべきだと思う。ネットで公開するにしても「僭越ながらオリジナルイラストを拡張させていただきました」くらいのような謙虚な姿勢は必要だろう。少なくともオリジナルであるMTGのアートワークを愛する者であれば、そのくらいの慎みは必要なのではないか。まして、個人で楽しむならまだしも販売するのは法的にも危うい(著作権や同一性保持権の侵害)

不要カードの再活用先としての拡張アート


実際にプレイしたりプレイヤーと接するまでは気づきにくいのだが、TCGで本格的にデッキを構築する場合、廃棄カードの問題は避けては通れない。MTGの場合、基本的には1つのブースターから「レア1枚、アンコモン3枚、コモン10枚」という配分となっている。このうちレアは1/8の確率で神話レアとなる。つまり1パックから出てくるレアリティ別カードの期待値は、「神話レア0.125枚、レア0.875枚、アンコモン3枚、コモン10枚」となる。神話レアを4枚出すまでに開ける必要のあるパックは32個であり、416枚のコモンとアンコモンが出る。実際には複数の神話レアを4枚積みするデッキも少なくないわけで、60枚のデッキが1つ完成するまでには1000枚単位の余剰カードが発生しているのは間違いない。

さらに上記の想定は「同一レアリティのカードが等価交換され、必要なプレイヤーに行き渡って最適化されている」という理想的な仮定であり、現実ではもちろんそんなことはない。同一レアリティでも実用性によって価格差は当然発生するので、大会級のデッキ1つの背景には膨大な不要カードが存在しているのである(近年はコモンカードが出ない代わりにレア・アンコモンを3倍にし、値段も3倍強の「コレクターブースター」なる商品もあり、多少緩和されているようだが)。

店舗によっては不要カードの回収ボックスを設置し、希望者に無料配布を行っていることもある。カードを集め始めた初心者にとっては貴重な資産となるし、これを使ったキューブドラフトなども楽しめるので無料でありながら相当遊べるアイテムなのだが、店からしてみれば値段のつかない紙束なのである。必要な人に引き取られるカードがある一方で、おそらく相当数のカードが日々廃棄(あるいは古紙として再生)されているものだと思われる。

長々と書いたが、つまりTCGというのはその販売形態からして、短いスパンで「捨てられる」前提のカードというのが少なくない。そのような廃棄される運命のカードに「拡張アート」を施して遊ぶのは、アート的にはNGでもゲーム(娯楽、ホビー)の観点では大いに肯定したいと思う。「どうせ捨てるくらいなら遊んじゃおうぜ」くらいのノリである。アートに対する敬意を犠牲にしてでもホビーに対する敬意は尊重しているように見えるので、個人的にトータルでの不快感は相殺される

値段がつかないカードの活用法としては、「晴れる屋」を経営するトモハッピーこと齋藤友晴氏がたびたび言及しており、拡張カードもその手段の一つとしている。このような姿勢には共感できるのである。同氏による不要カード(TCGショップを経営する以上は避けて通れない)に対するアプローチとしては「メガナプトラの行方を追え!」というコラムも非常に興味深かった。



希少カードや高額カードへの加工について


さて、問題はこのような廃棄前提のカードではなく、現行環境で引く手あまたの優良カードや、あるいは(希少価値に関わらず)絶版となった、特に再録禁止が明言されているカードへの拡張アートである。特に後者については価格(需要と供給のバランス)に関わらず現存する絶対数が限られるので、MTGを文化として次世代に引き継ぐことを重視している加藤氏にとって、最も許せない形の拡張であると思われる。

単純に道義的に考えても、それなりの値段のつくカードを損壊するというのは第三者から見てもあまり気持ちの良いものではない。たとえ当人は純粋にアートを楽しむつもりであっても、札束に火を付ける成金のような嫌らしさがある。もちろん自らの所有物をどうしようが法的には問題がない。しかし客観的には嫌われて叩かれても仕方がない行為であるということは自覚すべきであろう。

拡張アートカードの対戦での使用


これは論外である。拡張アートという趣味を共有する身内以外ではするべきではない。例えば一部であろうが拡張されている時点で、マナコストや不利な能力を隠されている疑いを捨てられないのだ。本来のカードの効果(オラクル)はオンラインで公開されているとはいえ、対戦中に随時確認を求めるようではまともにゲームが進行できるとは思えない。

カード本来の姿を対戦相手に見せないのは、根本的なところで対戦相手への敬意が欠けているのである。いくら有名なカードであろうが相手がそれを知っているとは限らない。百歩譲って基本土地くらいならまあいいかなと思いたいが、そもそも「拡張アート」という概念自体を知らない人に見せたら困惑するだろうから、やはりNGとしておきたい。

まとめ


  • 基本的に、人様の絵に手を加える時点でどう足掻いてもマナー違反。ひっそりやるか、さもなくばリスペクトを強調しろ。
  • 高額カードへの加工は成金的な嫌らしさ、絶版カードへの加工は文化面の軽視から反発を招くことが多いので特に注意しろ。
  • 間違っても身内以外との対戦で拡張アートカードを使うな。
  • MTGに関わる以上、「MTGというゲーム」「イラスト担当のアーティスト」「対戦相手」への敬意は常に忘れてはいけない。

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そもそも次世代に引き継ぐことを望むなら一番の壁は再録禁止制度なのでは?
そしてテキストが見えない云々についても公式のテキストレスカードについてはどうするのですか?
ナナシの実 | URL | 2019/09/30/Mon 12:33 [編集]
個人に対する侮辱を含むコメントを削除した上で返信。

まずPSA鑑定を永久封印か何かと勘違いしている人がいるようですが、プラスチックのケースを壊せば元のカードはそのまま取り出せる(鑑定品としての価値はなくなるが)ので、不可逆な改変である拡張アートとは本質的に異なりますね。極端な話、PSA鑑定品をセラで購入した上でケースを破壊し、デッキに入れてもいいわけです。

再録禁止ポリシーに関してはTCG以前のトレーディングカードの文化として「希少性を販売元が保証する」もので、今更覆すわけにもいかないでしょうが、ゲームとして長期間遊ばれるようになると不都合が出てくる面はありますね。個人的には新規イラストの公式プロキシ(ルール適用度が低い大会で使用可能)あたりを出すのが落とし所のような気がします。

他のTCG含めて昨今のジャッジ問題などもあり、純粋に競技としてのTCGは次第にデジタル中心に移行し、紙のカードはカジュアルな遊びか、現物維持のコレクション志向に移行していくのではないかという今日このごろ。

テキストレスカードについて、少なくともプレイアブルとして配布するのは個人的に良くないことだと思うし、デッキに入れるのも望ましくないと思いますね。それこそ知らずに出されたら私製品を疑うでしょう。プレイヤー褒章プロモとしては既に廃止されたようで、公式も問題を意識していたのかも知れません。
かける | URL | 2019/09/30/Mon 13:39 [編集]
拡張アートに関してはマジック歴自体は短いですが長いことカードゲームをやってきた身からすると個人的には個人、または身内内で済ませて欲しいのが本音です。(カードは元絵やフレーバーありきだと思ってるので上から全く違う絵をべったり塗ったりアーティスト名を塗りつぶしてあるのを見ると悲しいです)
英宝さんは以前からトモハッピーさんの動画で見させて頂いていましたが本当にマジックのイラストが好きなお方なんだなぁと思いましたので溜まった不満が今回の質問の回答から爆発してしまったんでしょうね………
ナナシの実 | URL | 2019/09/30/Mon 15:31 [編集]
mtgを次世代に引き継ぐという観点からすれば、拡張アートよりも再録禁止カードの問題の方が余程重要では?
今回の加藤さんの発言はマナーや好あくまで個人の価値観であることを踏まえて発言すれば良かったものの、
ナナシの実 | URL | 2019/09/30/Mon 16:03 [編集]
文化やら何やらと主語を大きくしすぎたことが炎上の原因では?
ナナシの実 | URL | 2019/09/30/Mon 16:06 [編集]
誤 マナーや好
正 マナーや好き嫌いなど

連投失礼しました
ナナシの実 | URL | 2019/09/30/Mon 16:08 [編集]
再録禁止カードの是非について記事を書こうと思ったけど、英宝さんのコラムで十分だということに気づいたので紹介。
「エターナルへの新規参入について。」
https://cardshop-serra.com/material/column/9454

「いざという時にお金にかえられる紙」として納得した上で売買している人が既にたくさんいる以上、彼らを裏切るのは会社としての信用問題に関わると思う。
僕の意見としては、「実際のカードを揃えられない」という人は再録制限の無いオンラインで遊ぶか、あるいは身内でプロキシでも使えばいいと思っている。
かける | URL | 2019/10/04/Fri 21:15 [編集]
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