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「すべそれ」に見るホビー漫画の可能性
『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』を、とりあえず単行本1巻を読んだところで思ったこと。



関連コンテンツ:元ネタ解説(本サイトへリンク)
すべそれ」こと『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』、物騒なタイトルだが、これは題材であるマジック・ザ・ギャザリング(以下「MTG」と表記)のカードの文章と、ノストラダムスの大予言(日本における「恐怖の大王」の解釈)に由来する。日本における第一次ブームである1990年代の末(物語は1998年からスタート)における、MTGを愛する男女の青春ラブストーリーである。

ノスタルジーホビー漫画というジャンル


20年くらい前の実在のホビーを題材に、主人公の男の子とライバル兼ヒロインの女の子の不器用な恋愛を描いた漫画作品」としては、先例である『ハイスコアガール』(1990年代中盤以降の格闘ゲームが題材)と比較されることが多い。ホビー漫画というジャンル自体は今となっては定番である(主に、コロコロコミックのような男児向け雑誌に多い)が、従来の作品とこれらの2作品が決定的に異なる要素が2点存在する。

まず「過去を題材にした」ということ。そもそも、一般的なホビー漫画の最大の存在意義はそのホビーの販促に他ならない。例えばミニ四駆は新シリーズ展開とともに複数回漫画化されている。コロコロではMTGを題材にした『デュエルマスターズ(初期)』もあった。ストリートファイターを始めとする格ゲーにせよMTGにせよ、確かに現在でもシリーズは続いているのだが、「当時の」ゲーム及びそれを取り巻く環境はもはやどこにもない。当時を漫画で懐かしむことはでき、古いゲームやカードを引っ張り出してきて昔の友人と遊ぶこともできるだろう。しかし、主人公たちと同じリアルタイムの体験はもはや絶対にできないのである。それを知った上で現役作品にカムバックしようとする人は、いないとは言わないが決して多くは無いだろう。

そして第二に「ヒロインかつライバル」という存在。コロコロ系ホビー漫画にヒロインはいないか、いても脇役扱いが多い。まして勝負の場で主人公のライバルとしての地位を保つ女の子なんて、小学生男子には間違いなく受けないだろう。しかし中学生くらいにもなると、「自分と同じ男子向けホビーを遊ぶ同世代の女の子、しかもそこらへんの男子よりもずっと強い(上手い)、それでいて自分のことを気にかけてくれる(あと、容姿ももちろんかわいい)」という存在は憧れの存在である。なにせ、その趣味に没頭することが即ちその子とお近づきになることに繋がるのである。

そのような女の子はフィクションだけの存在だろうか。いや、(同じ趣味の男の子に対する好意はさておき)当時にしても存在しなかったわけではない。例えば1997年のミニ四駆ジャパンカップ優勝者は女の子である。ポケモンリーグ(ゲームの大会)でも1997年には地区代表となり全国大会に進んだ女の子がいることも当時のファンにはよく知られている。もちろん全体としては男の子が圧倒的に多いので、実際に当時ホビーを通じて女の子と知り合った、まして恋に発展したというのは稀だろう。しかしホビーを通じたボーイ・ミーツ・ガールという展開は決して単なる絵空事ではなかったのである。

『すべそれ』の新境地


共通点の多い2作品だが、明確な違いも存在する。1990年代半ばの格闘ゲームは実際に大ブームだった。それこそ、アーケードでも家庭用でも全くプレイしたこと無い男の子なんて皆無に近いと思われる。一方、1998年の時点ではTCGはまだまだマイナーなホビーだったのである。恐らく主人公と同世代においては、男性に絞っても「(少なくとも当時は)プレイしたことはない」という人が過半数を占めるのではないかと思う。

少し下の世代(1980年代後半生まれくらいから?)となると、ポケモンカードや遊戯王OCGによってTCGというホビーが男子の通過儀礼のようになっていくのだが、当時はTCGというジャンル自体の(少なくとも日本においては)黎明期であり、同じクラスで話が通じる人がいればマシなほうである(実際、主人公のはじめ君もMTG仲間は隣のクラスにしかいない。何気ない描写だがリアルである)。主人公と同世代の読者で、ホビーをとりまく当時の描写に共感できる人というのは『ハイスコアガール』と比較するとずっと少ないと思われる

『すべそれ』の概要を知った時の第一印象は「よくこんな題材の漫画が商業誌で連載されるようになったな」というのが正直なところ。Web漫画などで狭い層には大受けするとは思うのだが、一般漫画誌で受けるとは思わなかった(実際、読み切りの反響が予想以上だったようだ)。

Amazonのレビューなどを拾い読みしてみても、「当時リアルタイムでMTGを遊んだ人」「当時やっていなかったが後にMTGを始めた人」「MTG以外のカードゲーム(あるいはその他のボードゲーム)を遊んでいた人」、あるいは「原作のMTGなど知らなくてもカードバトル漫画として読んでいる人」など、様々な読者がいるようだ。世代的にも、主人公と同年代もいれば上も下もいる。

2作品に見るインドアホビーの地位向上


『ハイスコアガール』にせよ『すべそれ』にせよ、必ずしも主人公と同時代を生きた人にとどまらない多くの読者を惹きつけたのは「ホビー×青春」という要素が重要な役割を果たしたからではないか思う。

例えば、「スポーツ×青春」という漫画は昔から多かった。一例として、あだち充の野球漫画を挙げると『タッチ』にしても『H2』にしても、当時の少年少女はもちろん大人の読者もたくさんいた。多くの大人たちにとって、野球というスポーツは(自分でやるにしても、同級生を見るにしても)青春の1ページだったのである。時代こそ違えど、達也や比呂の青春に自分たちを重ねていたのだろう。

今となってはスポーツだけでなく、ビデオゲームやTCGといったインドア系のホビーも、(単なる子供時代の遊びにとどまらない)青春時代の1ページであることを共有する世代が少しずつ増えてきたのではないかと思う。漫画やフィクション市場全体から見ればまだまだ狭いジャンルだとは思うのだが、それでも受け入れられる土壌は徐々に形成されているように見える。今後も様々なジャンルにおいて、青春ホビー漫画は確実に増えていくことだろう。それは必ずしもノスタルジーである必要はないだろう(多くのスポーツ漫画が連載時点の現代を舞台にしているように)。リアルタイムにしても過ぎた過去にしても、多くの人が共感できる青春物語が受け入れられないはずがない

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