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初代ポケモン セレクトバグとミュウの「発見」
ミュウの公式発表以前に「出しかた」はどれほど知られていたのだろうか?そしてその方法はいかにして拡散されたのだろうか?
コロコロコミックにおいて「ミュウ」が公開されたのは1996年5月号。実際の発売日は4月15日である。
後に明かされた情報によると、「3月半ば頃に"何らかの操作によってミュウが出る"という噂が子供たちの間でささやかれ、メーカーへの問い合わせが相次いでいるということが、クリーチャーズの石原恒和氏の耳に入り、それに対する回答として公開した」ということになっている(ソースは書籍「ポケモンストーリー」など)。

さて、僕自身も発売日から本作に触れているものの(買ったのは弟だが)、ミュウの存在を知ったのはコロコロ5月号であり、それ以前に噂として聞いたことはなかった。後述のバグ技を知ったのもコロコロ発売以降である。
もっとも発売当時から注目している人自体が周囲にほとんどいなかったので当然と言えば当然なのだが、後に発表された経緯を読んだ第一印象は「いくらなんでも発売から早すぎるのでは。そもそもミュウの公開は織り込み済みであり、子供たちがバグ技で発見したということ自体が創作された”ストーリー”なのでは?」といったところであった。
しかし、改めて当時の資料を確認すると、少なくとも「ミュウの出しかた」がメーカーの意図せざる形で拡散していた(そして、そのことをメーカー側が掴んでいた)という点については十分にありえる話だという結論に至った。

当時における「ミュウを出すバグ技」とは何か?


念のため確認しておきたいが、ここで「デパートでミュウを釣る」だの「fifth法(とくしゅエンカウント)」だのを連想した人は根本的なところで誤解をしている可能性が高い。ミュウ釣りは1999年以降、fifth法は2004年以降にネット上で拡散された、(発売日から見れば)かなり後年に発見されたバグ技である。当時「ミュウを出す方法」と言われていたものはもっとシンプルなものだった。

当時流布していたバグ技の具体的な手順は次の通りである。「先頭に水タイプのポケモンを用意する。戦闘中に道具の13番目でセレクトボタンを押して並び替えカーソルを出す。そのままBボタンを2回押して道具メニューを閉じてポケモンメニューを開く。Aボタンを押すと画面がおかしくなり、先頭のポケモンがミュウになる」というもの。原理としては、「水タイプのコードとミュウの種族コードが一致しているために、それぞれの値を入れ替えることで変化する」というもののようだ(実際は、その部分のデータのみをピンポイントで入れ替えているわけではないようで、画面は乱れるしポケモンの技などのデータもおかしくなる。実験の際は自己責任で行う事。特にVC版などで大事なデータがある場合は注意)。

(なお、遅くとも1996年中には販売されていた後期バージョンや、青版においては戦闘中に道具の並び替えカーソルを出しても閉じると消えてしまうため、後に紹介されたものとしては「戦闘前に並び替えカーソルを出しておく」ということになっている)

実際に流布したバリエーションとしては、先頭に置くポケモンが指定されていたり(コイキングであることが多い、考えられる理由は後述)、13番目に特定のアイテム(いいキズぐすりであることが多い、これも後述)を置くように指示しているパターンが多かったが、実際のところ最低限必要なのは「タイプ1が水のポケモン」のみであり具体的な種族は問わないし、道具も13項目以上表示されていれば何でも構わない。

このミュウはあくまで「見た目だけのミュウ」で、外見や覚える技などはミュウであるものの、能力などは変化前のポケモンのものであり、育て屋に預けたりすると元に戻ってしまう。そのため、より完璧なミュウを出す手段が確立した後は忘れ去られていった。後からポケモンのバグ技を知った人は存在自体知らないかも知れない。それでも当時、ゲーム内には出現しないポケモンが出る衝撃は大きかった。出現させた時点では図鑑に登録されないものの、通信交換を経由すればしっかり登録されるのである。

シンプルではありながらも0から発見するのは難しそうなバグ技が、当時全国の子供たちの間で知れ渡っていたのはなぜだろうか。そのヒントはゲーム雑誌にあった。

雑誌に紹介されたセレクトバグ


実は、ミュウを出す技でこそないものの、セレクトバグそのものがゲーム雑誌においておおっぴらに紹介されたことがある。
「ファミマガ」こと「ファミリーコンピューターMagazine」1996年4月19日号(4月5日発売)において、読者投稿のウル技「他のポケモンに経験値を分ける」として紹介されていた。今現在、初代ポケモンのバグに詳しい人が表題を見てもピンとこないかも知れないが、これこそがセレクトバグの基本中の基本なのである。

概要としては「戦闘中に道具ウィンドウのn番目でセレクトを押し、並び替えカーソルを出したまま閉じる。次にポケモンメニューを出すと、並び替えカーソルが残っていて、Aボタンを押すと先頭とn番目のポケモンが入れ替わる。実際に戦闘に出ているポケモンは変わらないが、その戦闘で獲得する経験値はリストの先頭に移動したポケモン(元n番目)のみに振り分けられる」というものである。

(原文では、あらかじめ道具のn番目に「いいキズぐすり」を置いておくように指示しているが、実際は道具の種類は問わない。ゆえに、もしあなたが何らかのセレクトバグにおいて「いいキズぐすり」が絡む手順を記憶しているのであれば、それはこの投稿から派生した技である可能性が高い。)

さて、当時の雑誌において「読者投稿の裏技」の信憑性には怪しいものがある。実際のところはメーカーからの垂れ込みであったり、あるいは雑誌編集者が発見した技を、読者投稿という名目で発表したケースは少なくないとされている。しかし上記の技に関しては、個人的には本当に読者が見つけた技だと思っている。「道具メニューの並び替えカーソルがポケモンメニューにも残る」という点については自然に発見する可能性は高く、何度か試すうちに「ポケモン自体は入れ替えられないが、経験値の獲得対象は入れ替わる」ことに気付いたプレイヤーがいたとしても不思議ではない。

「ミュウ出現」への道


性質上、上記のウル技は手持ちポケモン数の上限、すなわち道具欄の2~6番目に並び替えカーソルを出すものとなっている。しかし「もし7番目以降にカーソルを出したらどうなるんだろう?」という疑問は当然生まれるはずである。7番目以降で試すと明らかに画面がおかしくなるが、順番に試すうちにミュウに辿りつく可能性は低くないと思われる。またポケモン自体のデータがおかしくなるゆえに、「バグって消えても惜しくないコイキングを使おう」という発想に行きついて、「水タイプ」という条件を自然に満たしていることもあっただろう。

このように、雑誌に掲載されたウル技を試しているうちに、ミュウに辿りついたプレイヤーはそれなりにいたはずである。初期のポケモン解析サイトとして有名なhiwasa氏の弟さんも、氏のサイトの「ポケモン履歴書」を読む限りはその一人のようだ。彼と同じように、1996年当時に流布していた「ミュウを出す方法」は、雑誌掲載のウル技をもとに全国のプレイヤーが同時多発的に発見したものだと思われる。「ネットも発達していない時代、ミュウを出す方法が口コミで広がったのは不思議だ」みたいな意見をよく見るのだが、大本の情報が雑誌であったのだとしたら不思議ではない。

まして歴戦のゲーマーたるファミマガ編集部であれば検証の過程で確実に実験したはずで、その中でミュウを発見してしまった可能性は高い。雑誌の発売が4月5日なので、早ければ3月の半ば頃には投書が届いて検証していたはずであり、冒頭で述べた石原氏が聞いた「噂」とやらも、直接の情報源としてはファミマガ編集部であったかも知れない。

そもそもファミマガ編集部以外でも、当の投稿者自身がミュウに辿りつくことも考えられる。ことによっては「経験値を分ける技」と同時に投稿していた可能性すらある(その場合、掲載されなかった理由はメーカーチェックによる差し止めか、不安定なので掲載を見送ったかだろう)。たとえ投稿後であっても、発見したのであれば友人たちの間で拡散しただろうし(当時ポケモンをやっている友人がいれば、の話ではあるが)、その中から問い合わせをする者があらわれ、石原氏の耳に入ったのかも知れない。

いずれのケースにせよ「ミュウを出す方法」そのものか、少なくともそれに繋がる可能性のある情報について(遅くともコロコロ5月号の校了以前において)メーカー側が認知し、遠からず拡散する可能性を見込んで紹介記事の掲載とプレゼント企画を決断したという可能性は十分にありうるものだと思われる。実際に「子供たちの間で噂になっていた」ということ自体は未確認だっとしても、日本のどこかでそのような事態が発生しているという予想はできたはずである。

なお、雑誌掲載情報についてはゴクテバさんが国会図書館で調べてくださったものであり、ここにお礼を申し上げる。紹介したファミマガ以外にも、ポケモン発売前後における雑誌の記事についてはご自身のサイトでまとめられているのでぜひご一読を。当時を知る方には懐かしく、そうでない方にも興味深い内容であるはずだ。

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メモ:

「ポケモンストーリー」においては、子供たちの間で噂になっているだけではなく、インターネット上で紹介するサイトもあったということになっている。しかし、1996年の春時点でそのようなサイトは確認されていない。当時からインターネットに繋いでいたhiwasa氏が、情報交換の場を探したが見つけられなかったという話が伝わる。

同じく「ポケモンストーリー」において、ミュウの噂がささやかれた時点で市場には修正前後のROMが混在していることになっているが、そもそも発覚していない時点で修正版を用意することは不可能であることから、このあたりは時系列が混乱していると思われる。

コロコロ5月号の時点では、「バグ」だとか「不正な操作」だとかに対する言及はない。公式サイドからバグ技への注意喚起を行うようになったのは、早くとも1996年後半あたりからだと思われる。手元の資料では、「ポケットモンスターを遊びつくす本 青(1997年1月)」においてバグ技の危険性に言及している。

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