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「ウィザードリィ外伝」と初代「ポケモン」
初代ポケモン発売から遡ること4年以上、そのコンセプトを実現していたゲームボーイソフトがあった。

書籍「ゲームフリーク 遊びの世界標準を塗り替えるクリエイティブ集団」によると、田尻氏が通信ケーブルによる「情報のやりとり」を取り入れたゲームのアイディアを思いついたのは1990年の事であるらしい。確かにその頃は、田尻氏の言うとおりゲームボーイの通信ケーブルはほぼ単純な対戦プレイにしか使われていなかったはずだ。携帯ゲーム機を繋げて、人から人へと何かが移動するという可能性は新しい思いつきであったのだろう。

だが、それからわずか1年後である1991年10月に「ウィザードリィ外伝」が発売されている。基本的なシステムはファミコン版シナリオ3をベースにしながらも、通信ケーブルによるキャラクターの転送(所持する金品を含む)に対応している。さらに、商店の陳列棚をコンプリートする(つまり、全てのアイテムを入手して商店に売る)ことが目標とされており、達成すると次回作との連動に関わるスペシャルなアイテムを入手できる。ゲームボーイ発売からわずか1年半後に、ポケモン以後に乱発されることになるシステムを備えたゲームが生まれていたのだ。

(余談だが、93年9月に発売されたWiz外伝3では既にプレイヤーキャラ同士の通信対戦も実装されている。しかし「無制限にキャラのレベルを上げられる」というシステムとの相性が悪いためにまともに遊べたものであるとは思えない。実際に評価はよくなかったようで、後のGBC版リメイクにも採用されず1作のみのギミックに終わっている。)

ウィザードリィにおいて、キャラクターとアイテムは非常に重要な存在である。パーティが全滅したらセーブ時に巻き戻るわけでもなく、拠点に戻って復活するわけでもなく、ダンジョン内に置き去りとなる。救出したければ別のメンバーによる救助隊を組まなくてはならない。そもそも全滅した時点で喪失判定があり、所持品もろとも完全に消滅してしまうことだってある(あと蘇生失敗での喪失もあるが、実際は稀なケースである)。アイテムに関しても、店で購入できるのはごく初歩のもののみで、大抵の武器や防具はランダムドロップに頼らないと入手することができない(何度でも手に入る固定入手アイテムが救済措置になっている場合もあるけど)。そのようなシステムなので、キャラクターを送り込んで友達の窮地を救う、あるいは余った装備品を分け合ってお互いの戦力を強化するという状況が発生し、ドラマが生まれる。

ポイントは店(「ボルタック商店」という名前がある)の存在であり、売却したアイテムは在庫として陳列される。つまり多くの種類のアイテムを売れば売るほど在庫が増えていくという、近年のゲームでもあまり見られない仕様がある。実質的には店が倉庫を兼ねているようなものだが、PC版ではキャラクターごとにパスワードをかけることが可能だった(つまり同じセーブデータを複数人で使用することが想定されていた)ので、同一のデータで遊ぶプレイヤー同士のネットワーク中継点としてアイテムを仲介する役割があったと思われる(ボルタック「商店」は原語では「trading post」、すなわち「交易所」である)。ともかくも、最終的にはゲームに存在する全てのアイテム(売却不可のイベントアイテムや、陳列されない呪いのアイテムを除く)を並べることが可能であり、ファンの間では達成感のあるやりこみ要素として扱われている。

なお、元々のパソコン版ではフロッピーディスクをコピーすることでキャラクター及び所持品をコピー可能。実際、矢野徹氏の「ウィザードリィ日記」では、おそらく作家仲間のキャラデータを流用することで資金面で不自由しなかったようなことが語られている。ファミコン版でもターボファイルという外部記憶装置に対応しているので同様のことはできる。だが、キャラクターデータはまとめて1つのディスクで管理されているので、既にキャラクターがいる場合はそれらを初期化しなければ別データのキャラを送り込めない(注:ファミコン版の話であり、各種PC版では不明。なおファミコン版ではキャラを読み書きしても店の陳列物はそのままなので、「既存キャラのデータをターボファイルに保存→欲しいアイテムを持ったキャラデータを読み込んでアイテムを売る→既存キャラを再読み込みして売られたアイテムを買い取る」ことでアイテムのやりとりが可能。ただしその場合はターボファイルの保存バンクは2つ必要で、初期型なら2台を使うことになる)。

上記の例と比較すると、ゲームボーイと通信ケーブルであればより手軽に行うことができるという長所がある。ディスクや装置を介さないので、ケーブルを伝わってキャラクター自身が移動するという自然なイメージも抱ける。そしてコピーではなく転送、つまり送り元からはそのキャラは消えてしまうのは非常に重要な違いである(コピー前提のフロッピーディスクはもとより、ターボファイルは読み書き自由だった)。ポケモンの通信交換と通じる部分は多い。

アイテムコンプリートの要素に関しても、商店の陳列棚にはわざわざ(まだ入っていないアイテムのための)空欄が表示されるようになったために、従来よりもコンプリートへの意欲が掻き立てられる。ポケモン図鑑のように詳細な説明が見られるようになったりはしないが、収集要素としての位置づけはかなり似ていると言える。

ポケモンに見られるキャラクターの「通信交換」、及びそれを促すための基本的な要素に関しては、既に大部分が「Wiz外伝」で完成している。それもポケモン発売の4年以上も前に、である。にもかかわらず、一般にその事はポケモンファンの間で知られていない。インタビューなどで関係者が言及したという話も聞いたことがない。その前段階である「交換したい」という動機付けである「ドラゴンクエストの不思議な帽子」の件はあらゆる場面で語られているにも関わらず。

手元の資料によると「ウィザードリィ友の会 総集編」(1991年3月)では既に「ゲームボーイ版」に触れられている(この時点では「外伝」というタイトルは無かった模様)。しかも誌面で発表した情報に対する読者投稿というフィードバックの形なので、実際の発表はそれよりずっと早かっただろう。後述のゴクテバさんの調べによると、1990年の8月頭の時点で通信システム(アイテムやお金のやり取り)が発表されたことが確認されている。

当然、社外に公表する以前の企画としてのスタートはそれよりもずっと前のはずである。実際にはいつ頃だったのかを知る由は無いが、1990年の初頭には既に動き出していても不思議ではない。もしかすると田尻氏がポケモンの原型を思い描いていた頃と一致するのかも知れず、「交換」のアイディアを開発者と直接やりとりしたた可能性すらある(余談だが、上記の本では杉森建氏もアンソロの一員として漫画を執筆している。氏もまたWizのプレイヤーだったようで、自身のゲーム体験も題材にしている)。

田尻氏は、元々「ファミコン必勝本(後の「ヒッポンスーパー」)」のライターを勤めていた。同誌ではアスキー製のコンシューマ版ウィザードリィを強くプッシュしていたことで知られるので、この時点で和製Wiz開発者との接点はあるはずなのだ。後に「外伝」として発売されるゲームボーイ版ウィザードリィについての情報も一般よりも早く入ってきたはずだろう。調べれば調べるほどに(Wiz外伝と田尻氏に共通する)「ゲームボーイ通信ケーブルによる交換」というアイディアは、時期的にも人間関係的にもごく近いところにあったと思われるのだが、今のところ田尻氏とWiz外伝を直接結びつける手がかりは得られていない。

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余談だが、田尻氏はポケモンの企画書の中で「ウィザードリィ」に触れている。「田尻智 ポケモンを創った男」にも掲載されている「近未来ストーリー」(仮想プレイヤーの視点でゲーム内容を紹介したもの)の中で、「このゲームではカリスマ度を高めて怪獣と友達になる」「カリスマ度はウィザードリィにあるけど日本のゲームではあまり活用されていなかった」というような事が書かれている。なお実際のウィザードリィには(少なくともこれが書かれた1990年当時のシリーズ作品では)そのようなパラメータは存在しない。敢えて言うなら「Wiz5」におけるNPCとの会話システムで、うかつな行動を取るとアイテムが得られなかったり戦闘に突入するというのが似ているか。

ちなみに、上記の文章の中では「戦闘を通じて生け捕る」ことも可能だとされているが、当初の想定ではあくまでもサブであり、「カリスマ度を高めて友達になる」ことに主眼が置かれていたようだ。企画段階ではゲーム自体の雰囲気は殺伐としているような感じなのだが、「ポケモン」でもシステム上の再現は不完全にしてもしばしば取り上げられる(むしろ初代よりも以降の作品にて目立つだろう)「友達になる」というコンセプトが存在していたことは記憶しておきたいポイントであろう。

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関連リンク:『ウィザードリィ外伝Ⅰ』のメモ(ゴクテバさん)

主に発売前の雑誌記事を中心に、開発者やファンの声を収集している。
通信要素の実装が、発売が結果として9ヵ月も遅れたことの要因の一つとされており、既存ファンからも通信システムの必要性に疑問が出されている。
逆に言えば、開発ペースに重大な影響を与え、ファンから好意的な意見があまり得られなくても実装したかった要素であったとも考えられる。

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