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書評:千葉県立海中高校
東京湾の海底で青春を過ごした人々の物語。

未来の理想都市として千葉市の沖に造成され、今は廃墟と化した千葉県海中市には、かつて数万人の人々が生活していた……。

物語は、海中市出身で都立高で化学教師をしている牧村光太郎(現在)、海中高校に通う木口夏波(20年前)、2つの視点で交互に綴られる。クールで理知的な牧村とやや感情的な夏波、ややステレオタイプな男女像ではあるが、この2人が出会う過去の物語がメインストーリーと言える。

まず舞台設定が面白い。海底都市といっても住んでいるのは生身の人間。駅(海浜幕張駅・新習志野駅から海中線に乗り入れるのだ!)や学校、民家などは回廊で結ばれてはいるが、エアロックから海中に出ることも可能で、スキューバダイビングや「水中原付」で海中を移動する者も多い。人気のペットは壷さえあれば手軽に飼えるタコ!

この不思議な都市が生まれたのは海流発電と、水中でしか使えない安価なシーコンクリートの賜物。温暖化による水没を見越して最初から海中に都市を造ろうという突飛な計画が現実味を帯び、様々な条件から千葉市の沖に白羽の矢が立った。時代設定は明確にされていないが、牧村や夏波が高校生である20年前の世界でも携帯電話やインターネットが十分普及しており、さらに「政権交代」が行われたばかり(蓮舫らしき政治家も登場w)ということなので2010年頃の想定なのだろう。海中市の誕生はさらに20年前とのことなので1990年頃になる。時代背景を想像しながら読むと面白いかも知れない。

海中市で生まれ育った夏波はこの都市に強い愛着を持っているが、その海中市が風前の灯火であるという話を先輩である牧村から聞かされる。エコロジーの見本として生まれた海中市を崩壊させる要因もまたエコロジーの産物であったという皮肉。そして海中市の消滅が既に起こった出来事として知らされている読者の視点では、二度と戻らない青春と二度と戻れない故郷がオーバーラップして切なくなる。

海中市が維持不可能であることが土壇場まで公表されなかったのは政治上の問題ということになっている。本作における政治家は「既得権維持vs前政権叩き」という身勝手な争いで市民を振り回す存在。民間の研究者が本気で地球環境や世界平和のために動いているのに対して悪意のある描写だが、ストーリーをシンプルにさせるためかな。青春小説らしい青臭さを出すために、子供から見た大人ということで敢えて一方的な描写にしたのかな。

設定やストーリーで細かい突っ込み所はいくつかある(「コンクリより耐圧ガラスのほうがコストの問題になりそう」とか、「剣道部の先輩にまともな見せ場が無いのはどういうわけだ」とか、「タコって水槽でも飼えるよね」とか)けれど、物語は明快でテーマもしっかりしており、少し切ないながらも前向きな終わり方。大人が青春時代を懐かしんでもいいけど若い世代にもおすすめ。ちりばめられた小道具や伏線も面白く、思わず読み返してみたくなる部分が多い。何より海中都市という題材が楽しい。アニメ映画にでもしたらきっと受けそうだ。

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