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書評:海の底
横須賀の米軍基地に巨大エビの大群が襲来!自衛隊は出動できるのか!?

冒頭のような導入部の物語。突飛な展開からスタートするが、そこから展開される物語はディテールのリアリティが利いている(少なくとも門外漢にリアリティを感じさせる)、良くできたロウファンタジー作品。

物語は、基地に見学に来ていた子供たちが若手の自衛官2人とともに避難した自衛隊の潜水艦と、地上における対策本部、主に2つの場面で展開される。出現した怪物は人間よりやや大きいサイズのザリガニのような甲殻類。とはいえ直接戦闘では驚異になる相手であり、屈強な機動隊やライフルを以てしても手に余る相手。自衛隊の火力さえあれば殲滅も容易なはずなのだが……。

敵である甲殻類は人間よりやや大きい程度のサイズで、機動隊で防戦はできる程度(それでも攻撃をまともに非常に危険だが)。その微妙な強さが上層部の過小評価を招き、さらに警察などとの縄張り意識によってなかなか切り出せないもどかしさを産む。カードゲームに例えると、自衛隊という切り札を使えば勝利は確定することがわかりきっているのに、場の状況が出すことを許さない状況。逆に言えば、いかにして既存のカードを操作して切り札を繰り出すか、というまでの物語である。

閉塞を打破するのは潜水艦に残った若手の自衛官や警察の中の「問題児」たち。あくまでも本分を逸脱しない程度に裏技を使うのが良い。警察の手に負える相手ではない(早急に自衛隊に引き継がせたい)ことを示すために、敢えて頭を下げて壊走の「演出」を頼む(普段は偉そうな)キャリアとかね。別の人物の台詞では「次に同じようなことがあったときはもっと巧くやれるようになる。そのために最初に蹴つまずくのが俺たちの仕事なんだ。」というのもある。読者の溜飲を下げる台詞の一つだろう。

一番の見せ場は潜水艦の中。町会内の力関係をバックに威張っている圭介。紅一点かつ孤児ということで卑屈になっていた望。そして自衛官は熱血漢の夏木(不器用だけど読者の気持ちを一番代弁してくれてるかも)と、クールな冬原(すごくかっこいい、けど完璧すぎるかもなあ)のコンビ。圭介はむちゃくちゃ嫌なやつなんだけど終盤は逆に感情移入してしまった。とにかくかわいそうで。物語全体にはいろいろな要素があるけど、メインは少年の成長かも知れない。

全体としてはテンポもよく、久しぶりに一気に楽しく読めた小説。有川浩はこれが初めてだったけど他の作品にも興味が出てきた。

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有川浩はいいですよ。
どうも、いろいろと他方面にはまってましてごぶさたしております(^^;)
この方の小説はサクサク読める上後味が良く、どれを読んでもはずれがないので安心しておすすめできます(^^)
もしまだ読んでおられないなら、次に読むのは自衛隊三部作(笑)のうち「空の中」あたりをおすすめします。これも軽くSFですが、ザリガニじゃなく楕円です(笑)
あとは図書館戦争あたりもぜひvvv
サトチ | URL | 2012/07/08/Sun 14:30 [編集]
ご無沙汰です
「空の上」も実は同時期に購入して最初のほうだけ読んでたんですが、
いろいろあって中断してました。まあゆっくりと読むつもりです。
本作の後日談が収録された「クジラの彼」もつまみ読みしてみたり。
かける | URL | 2012/07/09/Mon 23:22 [編集]
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