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ポケモン世界考察:ガンテツボールの「弱さ」を読む
ポケモン金銀で登場した「ガンテツ」の作るボールから見るポケモン世界。

(例によってリメイク版は知らないので、GB版の仕様で話を進める)
ご存じのように、ポケモン金銀では「ガンテツ」という人物に「ぼんぐり」を渡すことで、特製のモンスターボールを作ってもらうことができる。「特製のモンスターボール」自体は、初代ポケモンのオープニングイベントである「おとどけもの」の中身としても言及されており(具体的にどういうものかは明かされないが)、設定としてはごく自然な立ち位置だと思われる。

しかしこのガンテツが作ったボール、ゲーム内ではほとんど役に立たない。性能自体は光るところはあるが説明と一致していない部分も多く、また高レア度のポケモンはいくら条件を整えても高確率で失敗してしまい、そのたびに投げたボールは失われてしまう。それは条件を満たしたガンテツボールであっても例外ではない。リアルタイムで1日1個しか作れない(金銀当時の話。クリスタル版では素材さえあれば同じボールを量産可能になった)という入手制限には到底見合わない性能である。

確かに前作と比べるとポケモンは捕まえにくくなった。失敗時のエフェクトも長くなったので、前作のようにコスパ最強のモンスターボールを延々と投げ続けるようなテクニックは使いにくくなった。しかしそれでも「1日1個」という入手性の悪さは異常であり、こんなものを時間をかけて集めるくらいなら、ハイパーボールを山ほど抱えて投げ続けたほうがよっぽどマシである。

はっきり言ってゲームデザインとしてみれば完全な失敗である。ポケモン捕獲というシステムは完全な確率判定なので、失敗したらそれまでで貴重品だろうがなんだろうが無駄に消えるだけである(故に、「必ずポケモンを捕獲できる=無駄にならずに確実に機能する」マスターボールは納得の希少性と言える)。ガンテツ及び彼が作るボールについては、金銀の発売前から目玉としてピックアップされていた要素だけに落胆したプレイヤーも多かったのではないか。

ここで視点を変えてみる。プレイヤーとしての利害から離れて、「ガンテツボールは役立たず、市販品で十分」というゲームデザインから世界設定を読むとどうだろう。熟練した職人が1日がかりで作る工芸品が、大量生産されてごく安価で購入可能なアイテムに毛が生えた程度の性能しかないという点に着目する。今では200円で買えるモンスターボールだが、かつてはこれを1つ生産するために1人日を費やさねばならない時代があったのである。

モンスターボールが希少品であるという前提では、ポケモンやトレーナーの立ち位置はゲーム内で見られるものとは大きく異なったものであっただろう。モンスターボールを大量に消費してポケモンを捕まえることができるのは限られた金持ちのみだったと思われる。あるいはボールを使わずにポケモンを手懐ける術があったのかも知れない(余談だが、田尻氏による初期の構想では「主人公のカリスマ」を以て仲間にするのがメインだった模様。詳しくは以前書いた記事の余談部分で触れている)。

(そういえば映画「セレビィ 時を超えた遭遇」ではユキナリ少年が旧式のボールを使っていたんだっけ)

現代を生きるガンテツ自身も、周囲のトレーナー達との関わりの中で、自らの作るボールが実用品としての役割を終えたことは既に理解しているのかも知れない。冒頭で挙げたオーキドへの「おとどけもの」も実用された形跡はなく、観賞用や資料として手に入れた可能性が高い。それでも老骨に鞭を打って、主人公のために(あくまで道具として使う目的で)ボールを作り続けるガンテツは何を思うのだろうか。その背中は何も語らない。

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なお、以上の文章は、現在では閉鎖されている「司史生の架空世界研究所」」というサイトにあった、「モンスターボールに見る寡頭制権力の変遷」という名文に触発されて書いたものである。ブログであればトラックバックを飛ばしているところだ。現在でもウェブアーカイブを掘れば読むことができるはずなので、興味のある方は探してみると良いだろう。

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twitter.com/tsukasafumio/status/769474402517823488
司史生氏は現在twitterをされていまして、ごく最近のtweetで同様の主張をされていました。

ニシノモリ教授の発見が1925年、初代ゲーム内の時期を1996年と仮定すると、ガンテツボールはニシノモリ教授の発見以前から使われていないと不自然な気がします。
もしガンテツボールがニシノモリ教授の発見以前から使われていたとすると、ニシノモリ教授の発見以前にポケモンの収縮現象が広く知られていたことになるので、身近な現象でも科学の壇上に上がるのは遅れることもある、といったところでしょうか。

ポケモン世界の近代化といえば、ポケモンセンターの端末からアクセスできる通信システムも思いつきますが、あれらのシステムもごく最近になって整備されてきたのでしょうか。
ただ、現実世界でもコンピュータの発展は1950年代あたりからなので、案外そんなものかもしれません。

思い付きや仮定まみれな乱文失礼しました。
ASPEAR | URL | 2016/08/27/Sat 23:49 [編集]
周辺のツイートを見ました。以前の文章とほぼ同一の内容ですね。
参照しやすい形で再公開してくれると嬉しいんですが。

ガンテツボールとニシノモリ教授の発見はどちらが先か、みたいな話題もごく最近TLに出てきましたが、
個人的にはニシノモリ教授による発見以降でも違和感は無いですね。
もともと別の伝統的手工業を生業としていた職人がその技術をモンスターボールに応用した可能性も。
(例の文章では、古来からボールがあった前提ですがそれとは別の解釈として)
かける | URL | 2016/08/28/Sun 16:04 [編集]
金銀ではそうですが後のゲームではハードの性能向上に伴って演出も強化され"オシャボ"と呼ばれてガンテツボールの需要も出てきましたね
オボン | URL | 2016/08/28/Sun 21:41 [編集]
>かけるさん
リメイク版、ヒワダのポケセン内の人が
「モンスターボールが売られるまで、みんなぼんぐり使ってポケモンを捕まえてた」
と発言していました。
量産型モンスターボールの販売はニシノモリ教授の発見以後なので、ガンテツボールはニシノモリ教授の発見以前から使われていたようですね。
ポケモンの体力を減らしただけで捕獲することが近年できるようになったってだけの話で、古代では「カリスマによって友達になる」ことでポケモンに自ら入ってもらっていた、という話かもしれません。
つまりニシノモリ教授の発見は、それまでポケモンが自発的に行う収縮現象について、外部から強制的に行わせる手段を発見したことに意味がある、ということです。
GB版金銀を紛失したのでそちらでの確認ができないのが残念です……VCはよ

ところで、「ポケモンをコンピュータ通信で転送する仕組みはポケモン自身の能力によるものである」という設定はアニメ版独自でしたっけ?
ゲーム内ではポケモンの転送とアイテムの転送が同列に語られるうえ、初期の攻略本を軽く見た限りでもそのような記述は見つかりませんでしたし。

>オボンさん
オシャボとしての使い道もある意味では鑑賞目的という気がします。
ポケモンの捕獲には使われていますが、ボールの性能が発揮されない局面での使用も多いみたいですし。
ASPEAR | URL | 2016/08/28/Sun 22:33 [編集]
モンスターボールの原理は発見すれば即製品化というわけにはいかないでしょう。
まず製品化に向けた研究開発も必要ですし、さらに商品としての流通や宣伝、
さらに規格化と大量生産による価格低下に至るまで、
一般に普及するまでのハードルは多く、数十年程度のタイムラグがあっても不思議ではないと思います。

ポケモンの転送についてはゲーム内では「科学の力ってすげー」と説明されてるだけでしたっけ?
ポケモン固有の能力だとするとアイテムのやり取りを説明できなくなりますからね。
あるいはアイテムに関してはもっとローテクに、パソコン通信を使って運送業者を手配するようなイメージでもいいのかも。
かける | URL | 2016/08/28/Sun 22:56 [編集]
ニシノモリ教授の発見以後、企業や専門機関による研究からの量産ボール開発と、民間での試行錯誤からのボール職人発生が独立して行われた、という見方も可能なわけですか。
それはそれでありそうな話です。
そういえば量産ボールの販売がいつから始まったという資料も見つかりませんね。

RSにおいて、紅/藍色の珠やダイゴへの手紙、デボンの荷物などを預けようとすると、「パソコンに ひとから あずかった ものは いれられません!」と表示されて預けることができません。他の大切なものは大体預けることができます。
やはりゲームではあらゆるものをコンピュータで転送できると見なした方がいいでしょう。
マサキとポケモンの合体の件もありますし。
ASPEAR | URL | 2016/08/28/Sun 23:19 [編集]
あらゆる物品を転送可能ということにしてしまうと、RS冒頭の引っ越しトラックは何だったんだみたいな話に。
もっともこれは「引っ越し」という記号性のための、ある種のメタ表現みたいなものだとは思いますけどね。

これに関しては、感情移入しやすくするためにあくまで現実・現代っぽい要素を前面に出すことと、
ポケモンの存在やオーバーテクノロジーといったファンタジー要素の間に生じる、
どうしようもない矛盾なのかも知れません。
かける | URL | 2016/08/29/Mon 15:17 [編集]
電子通信では大きすぎるものは転送不可能とか、量によってはコストがかかりすぎるとかかもしれません。
あるいは理論上はなんでも転送可能だが、法律上規制されているものも存在する(人間をはじめとする非ポケモン生物など)とか。
まさに主人公がトラックで運ばれてたわけですし。

引っ越しトラックはまず画面内外のどこからやってきたかというのが気になって……
唯一外へ通じる道は段差と草むらまみれですし他は森ばかりですし……
いやまあ自動車用の道を省略してるだけかもしれませんが、狭い町なので見た目として気になるというのはあります。

www.gamefreak.co.jp/blog/dir/?p=118
以上の記事にもあるように、ゲームフリークは元々ファンタジーに対して理由づけをすることに重きを置いているようです。
ポケモンまわりのオーバーテクノロジーもその一環でしょう。
ただそれでも、というかそれが故に、現実世界モチーフとの不整合な点は完全には消しきれないのかもしれません。
そのあたりを突き詰めると「インド象を追いかける」ことになってしまうのかも……
ASPEAR | URL | 2016/08/29/Mon 21:21 [編集]
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